陶芸家
小島 こじま 英一えいいち
茨城県 笠間市
小島 英一

’46年 千葉県千倉町生まれ。二松学舎大学大学院修了後、笠間市の製陶ふくだ、桧佐陶工房に勤務。翌年、現在地に築窯し『陶潤舎』設立。女子聖学院短期大学、鯉淵学園の講師なども務める。

著書に『陶芸の彩色技法』(共著)、伝統工芸品シリーズ『益子焼』(ともに理工学社)がある。

瀬戸屋になる - 私的笠間焼陶業史 - #6

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粘土のはなし

陶磁器は土を成形し、焼成して仕上げます。陶磁器に用いる土を陶土、粘土といいます。磁器に用いる土、磁土には陶石とよばれる石を粉砕し、微細な粉末にし、水を加えて練ったものを用いる方法が有田焼や砥戸焼です。また瀬戸や美濃などの素地は粘土に長石などを加えて作られています。

粘土が焼き物に使われるには、形を作ることができること、可塑性と変形せずに焼結する耐火性を利用しています。鉱物の粒子の細かさによって径が2ミリいじょうのものをれき0.2ミリまでのものを粗砂といい、0.002ミリまでの細かいものをシルト、微砂といいます。粘土はそれ以上に細かい鉱物のことです。

粘土には水分を含んでいる時に形を作り乾燥してもその状態を持続する性質があり、これを塑性といいます。また赤くなるまで熱を加えると硬く焼き締まり、丈夫になります。焼結性です。これらの性質を利用して焼き物が作られていることはすでに説明しましたが、この他にも成型した器物は乾燥、焼成を通して収縮します。この収縮が大きいとヒビ割れやひずみがおこり、焼き物には、向きません。粘土の用いる側から見た欠点や長所などの個性を見きわめ、一種類だけで使うものや二種類以上を混ぜ合わせるなどして、使えるようにします。

陶磁器に用いる粘土は坏土はいどともいいます。その作り方はおよそ三種類があります。一番簡単な方法は採取した土を乾燥させ、細かく粉砕し、ふるいを通して、ゴミや小石を取り除き、それに水を加えて練り上げる方法で「はたき土」「たたき土」と呼ばれるものです。次に桶などの容器に水を入れた中に水の二割くらいの土を入れしばらく放置します。するとゴミなどが浮き上がるので、ゴミと一緒に水を捨ててから、棒などでよくかき混ぜると小石や砂は沈殿するので中間の泥土を別の容器に移した後、水分を除去すると粘土ができます。この方法を水簸すいひといいます。微細な粒子の坏土を作るには一番いい方法です。

工業的にボールミル、トロンミルという粉砕機に、原料となる粘土20%に水を80%入れ、10〜20時間ゆっくり回転させて微粉砕した後にフィルタープレスで水分を除きます。この方法を精土といいます。また採取した土を原土げんどといい、そのまま使うこともあります。

土には焼いて重く感ずる土と軽く感ずる土があります。笠間の土や備前土は重くなり、志野や黄瀬戸、萩、益子の土は軽くなります。総じて粒子の大きい荒い土は軽く、微細な土は重くなります。土の軽重はまた焼き上がりの雰囲気に影響を及ぼします。土味です。焼き物好きにとって「味がある」はほめ言葉ですし、「味がない」は価値がないと同義です。

土味は土の粒度分布と焼結性によります。焼き締まりが弱ければやわらかい感じになります。志野や萩が代表的な例で、強ければかたい感じになり、備前など多くの陶産地の土がそれに含まれます。「しっとり」「ねっとり」といった云い方で土味を表現しますが日本人特有の美意識だと思います。

蛙目粘土、木節粘土、カオリンがやきものに使われる粘土の代表と云えます。カオリンはフランス人宣教師ダントルコールが18世紀に中国、景徳鎮で磁器の製造法を見聞きした時に名付けたことに由来します。カオリンとは採掘現場の「高い嶺」を云います。日本では高嶺(陵)土と呼んだ時代もありました。磁土、チャイナクレーといった言葉は同じ意味で使われることが普通です。

木節粘土も蛙目粘土もカオリンと同様に長石を含む岩石の風化による分解物でアルミナ、珪酸と水分から構成されていて珪石(石英)、長石、雲母のほかに鉄やチタン、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどが入っています。木節粘土は粘土層の中に炭化した木片が入っているので、そう呼ばれます。蛙目土は水に濡れた時に含まれている珪石の粒が光って帰るの目のように見えることから呼ばれています。

別の観点から見ると、母岩の場所で風化堆積した粘土を一次粘土といい、粒子が比較的粗いので可塑性はやや小さいです。一次粘土が雨などの流水によって遠くへ運ばれて沈積したものを二次粘土といい、粒子は細かく、可塑性が大きくなります。可塑性、作りやすさは粘土に含まれる雲母によります。セリサイトと呼ばれます。二枚のガラス板を水に濡らしはり合わせると、動かなくなります。これが可塑性の理由です。粘土は寝かせて使えといいますが、乾かないようにビニールなどで包み、放置すると粘土粒子の間に水分がゆきわたり粒子が同じ方向を向き、ガラスが合わさったように粒子も合わさり粘り気のある使いやすい土に変化します。

粘土には個性、くせがあります。この個性が土味を生みます。個性的で土味のおもしろい土は、概して作りにくく、独自性の少ない土は作りやすくても、おもしろくなく、そこで何種類かの土を混ぜ合わせることをします。産出に手間のかかる土や量の少ないものは高価で、量の多いものは安く、これらを考えて、作る人は求める土を決めます。

古代からの土や焼き物にひとは様々な思いを込めていることがわかります。『日本書記』の神武天皇の巻に長征に際して宇陀の高倉山の頂きに登り、国の中を眺めると周りを敵に囲まれていて進む道のすべてが塞がれていました。その時の夢で、この香具山の杜の中の土を取り、平瓮八十枚ひらかやそち、お神酒を入れる瓶を作り、天神地祗をお祀りせよとおつげされます。また同じことを助言され、そのようにすると無事平定することができました。

戦勝祈願の折に、瓶子へいしや鉢、皿などをたくさん作り、斎戒して祀ることも多く、またその土を取ったところを埴安といいます。このように古代の人は土や器に特別な霊力があると信じられていたことは、焼き物を考えるうえで興味深いことです。

酒作りとならんで、焼き物作りは古代の人たちにとって人知をこえた、特別のことと思われていたことでしょう。土が焼いてかたくなる、いわば形が永遠の命を得るといえるかもしれません。酒作りも発酵というはたらきによって原材料とは別のものを生み出す人類最古の科学の世界は神秘的だったと思います。古代の人たちのこの感覚を現代人の私たちはどう受け継ぎ、生かしていったらよいかが問題です。土が持つ美に鋭敏になることが求められているのかもしれません。 

2019.6.2公開 | 小島 英一

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